***やっては駄目な左前(死人前)***




 「用語がわからない。」で日本の着物の世界で唯一つ、やってはいけないのは左前(死人前)だけ。と書きましたが、では、左前とはなんぞや?



 短く申し上げれば、
 日本ではお亡くなりになった方を荼毘に付す時、新しい(もしくは故人がお気に入りの)着物を着た方の左手が懐に入るように着せます。
 お亡くなりになった方がお召しになる着方だから死人前、いわゆる左前と言います。縁起が悪い着方のため、この着方をしていると信心深い方には注意をされます。

 長く申し上げれば、
 日本では、奈良時代の元正天皇(氷高皇女:天武天皇の孫娘、奈良の大仏を建立した文武天皇の姉、そして日本では最初の未婚の女性の天皇)が「右衿の礼」という詔を出し、国内の者は全て衣服を右前に着なければならないと決めました。
 当時、中国派は右前、朝鮮派(本当はもっと別れるのですが纏めてしまいました。ごめんなさい)は左前という着方をしていたようで、韓国では今でも左前に衣服を着ています。
 政治の上で、日本は中国派ですよ。と発したわけですが、これ以後、わが国ではずーーと右前が守られてきたのです。
 ちなみに、当時の日本では左は貴いという意味を持ちます。朝鮮派に気を遣ったんでしょうね‥‥‥
 死者に左前で衣服を着せるということは、故人を貴い方だと思っているという意味も含んでいるのかもしれません。
 ですが、日本でずっと左が貴かった訳ではありません。
『奥の手』→左が貴かった時代の言葉。後から来る良い手は「左手」を指します。
『左遷』→右が貴かった時代の言葉。左に行くのが悪い意味になっています。
 こんなふうに昔から他国に合わせて意味を変えたりして、臨機応変に政治の波をかいくぐって来ていたのです。
 ただし、長い間左前は死者が着る着方というのは変わっていないため、昔気質の方やおば様方はこの着方をしていると注意して下さいます。
 それに作法や礼儀に関わってもきますので、お寺や神社などへの参拝、お茶会やお稽古事の時に左前で行くと冷ややかな視線で見られてしまいます。


 この詔以降も日本では派手な服を着てはいけないとか、いろいろ衣服についての詔が発せられますが、1000年以上も守られている着方だけは守ったほうがいいような気がします。

 そんな歴史のことなんて知らないわ!
 諸外国じゃ女性は左前でしょう?
 私は気にしない。

 と、言う方には一言。

 着物を着て出掛けると、否応なくおば様たちの視線を浴びます。
 大袈裟ではなく、本当に浴びます。
 そして、その時に左前に着ていると、人の良いおば様は絶対に注意をして下さいます。
 ですので、繰り返しますがおば様方から注意されても気にしないわ!縁起が悪い着方でも気にしないわ!という方は試してみて下さい。
 でも、オススメしません。ホントに。

 着物にブーツを合わせたり、帯締めの代わりにベルトを使ったり、足袋の代わりにストッキングを履いてサンダルに合わせたり、年がら年中季節も考慮しないで(着物の世界では四季を考慮して柄を選ぶのが通常なのです)桜柄を身に纏っていても「おしゃれ」「好きだから」で通せますが、左前だけは本当に怒られますから‥‥‥
 守らなくちゃいけないのは、これだけですから、一個くらいは守りましょう。ね。

 ちなみに、他のたくさんある決まり事は「現在の日本での着物の着方」という感じです。流派や教室によって着方は異なりますし、使う道具等によっても変わってきます。
 ご自分にとって楽な着方、楽しい着方で着ればいいと思います♪


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